ninchisyo of enju

認知症って?

認知症とは正常であった脳の知的な働きが、後天的な(生まれてからしばらくたって起きた)色々な病気によって、持続的に低下し記憶や判断、思考に支障をきたし、通常の日常生活・社会生活を営めない状態のことです。85歳以上のお年寄りの3~4人に1人が認知症といわれています。
認知症の高齢者は年々増加し、20年後には約330万に達すると予測されています。

認知症の原因って?

認知症の原因となる病気には多くのものがありますが、特に多いのが脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症です。この2つの認知症とその混合型(2つを合併している型)を合わせると、認知症全体の8割~9割を占めると考えられています。

脳血管性認知症とは?

脳血管性認知症は、その名の通りで、脳梗塞(脳の血管に血栓という血の塊りが詰まった状態)、脳出血(脳の血管が破れて出血した状態)など脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるものを指します。簡単に言うと、脳血管疾患の後遺症です。脳血管性認知症の場合、突然の脳血管障害をきっかけに急激に認知症が発症する場合と、小さな脳梗塞を繰り返して起こしているうちに徐々に認知障害が現れる場合とがあります。
脳の血管のどこの部位が障害されたかによって症状が異なりますが、記憶力の低下はあるのに、時間や場所は分るなど、出来る事と出来ない事がバラバラに現れることがあります。脳血管性認知症の場合、原因となるほとんどが生活習慣病といわれるものです。

アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症とは認知症を発症する疾患の中で一番多い疾患です。脳の細胞が変性(性状、性質が変わる)したり消失した結果、脳が縮んで認知症になるものです。脳の神経細胞は誰でも加齢とともに減っていきますが、アルツハイマー型認知症の脳では早期に、かつ急激に失われていきます。その原因には多くの仮説があり、未だ明確にはなっていません。アルツハイマー型認知症の発症と進行は徐々に始まり、ゆっくりと進行します。多くの場合、物忘れ(記憶障害)から始まり、時間、場所、人の見当がつかなくなります(見当識障害)。古い記憶は良く保たれますが、最近の出来事を覚える事が出来ません。そのため同じことを何度も何度も聞き返したり、置忘れが多くなります。

認知症の主な症状

認知症の症状は2つに分けることが出来ます。中核症状と周辺症状です。中核症状とは、病気等により脳の細胞が壊され、その細胞が担っていた機能が失われてしまったために起こる症状です。周辺症状とは、知的能力の低下によって起こる精神症状や行動障害で、人によって現れる場合と現れない場合があります。周辺症状のほとんどは記憶障害などによる混乱が原因で現れています。
認知症の症状は日常の生活の中でいろいろ出てきますが、その原因を考えてみることで、症状を和らげることもできます。認知症は他の疾患に比べると本人は勿論のこと、家族の心の葛藤が大きい病気であることも事実です。しかし、早期発見、治療やケアにより症状が改善され全体的な進行を遅らせることも可能になりました。そのためにも、早めに受診し、認知症と診断されても悲観せず、介護保険などの社会保障制度を十分に活用し、前向きに取り組むことが大切です。

早期発見の糸口について

皆さんは物忘れと認知症の違いを御存じでしょうか?一般的に歳相応の物忘れと思いがちの症状でも実際その症状が認知症であることもあります。なかなか認知症であると判断がつかないこともあり、症状を見逃してしまうこともあるようですが、認知症という病気は早期に発見し治療することにより、病気の進行を遅らせることが出来る為、何か不安を持たれたら受診することをお勧めします。
「同じことを言ったり聞いたりする」「物の名前が出てこない」など記憶や理解力の低下が主に認知症の初期症状だといえます。しかしながら、このような症状に気づいても、すぐに受診をされる方は少ないようで、7割の方が最終的に認知症と診断されるまでに2年以上かかる結果となっています。
この背景には年齢のせいにしたり、この程度の症状での受診に気がひけたりするほか、認知症の誤解により症状の進行が抑えられないので病院に行っても意味が無いと思っていることや、認知症であることを知られたくないという世間体もあるようです。

認知症の方への接し方

認知症の原因を早く見つける事によって、たとえそれが現段階では治らない認知症であっても、ご本人やご家族・介護者の生活の質を高め、介護の負担を軽減することが出来ます。早い時期に診断を受けられれば、ご本人にとっては病気が進んだ時に「どのように介護してもらいたいか?」「財産などをどのように処分したいか?」など、自分の意志をはっきり示しておくことができます。
また、認知症の初期は「困って大変」という時期ではないので、ご家族の方にとっては専門家に相談して、認知症やサービスについての正しい知識を持ち、病気の経過を把握することが出来ます。そして、将来においても、余裕ある対応に繋がり、新しい症状が出ても困惑することが少なくなります。
認知症の方の症状は様々ですが、大きく2つの特性に分けて考えてみます。1つは「事実の誤り(事実の取り違え)」、2つ目は「失敗行動」です。何かしら問題が起きた時には、逆らわず否定しないでください。認知症の方の対応で心がけることは、「自尊心の尊重」です。子供のように叱りつけたり、頭ごなしに否定すると、自尊心(プライド)が傷付けられ心理的に不安定になりやすいのです。まず、その方のありのままを受け止め、理解してあげてください。

徘徊について

徘徊は目的もなく歩いていると思われがちですが、その方なりに理由があってその目的のために歩いているのです。
家に帰りたいと歩き回る時に、頭ごなしに否定するなどすると、感情的になり、徘徊を助長することもあります。むしろこの場合、「家に帰りたい」という気持ちをくみ取り、気持ちを一旦別の事に向けさせたり、一緒に周囲を散歩するなどで気持ちが落ち着かれることがあります。
探し物をしている徘徊は、ご本人の気持ちを理解して一緒に探してあげる事が大切です。逆に玄関や門に鍵をかけて閉じ込めてしまうと、不安が高まり、症状が悪化することもあります。徘徊している背景(なぜ歩いているのか、どこへ行こうとしているのか)を知ることが大切です。

睡眠障害について

夜になってもなかなか休まれず家中を歩いたり、夜中に何度も起こされたりと、介護する側にとって心身ともに負担の大きい行為です。しかし、ご本人には「昼寝をしたから眠れない」「お腹が空いた」などの理由があります。高齢になると睡眠のサイクルが短くなり、健康な高齢者なら生活に合わせてコントロールすることもできますが、認知症の方の中にはそれが困難な方もおられます。日中の運動量が少なくなると、その分眠りも浅くなるので、一緒に散歩をしたり、家事を手伝ってもらったり、デイサービスを利用するなどで運動量を増やすようにしましょう。また、光を浴びることも重要で脳が活性化されます。運動と光を浴びることにより生体リズムが活性化され、昼と夜のメリハリがつき、昼間の覚醒度が上がって夜間の睡眠が深くなるという健康的な効果が得られます。ぐっすり眠る為には就寝前の足湯もお勧めです。また、認知症になると満腹中枢が鈍くなることもあり、食事をしても寝る頃には空腹感を感じて眠れなくなることもあるので、カステラや温めたミルクなど消化の良いものを食べると落ち着くこともあります。

物盗られ妄想について

認知症の方が「財布がなくなった」「通帳が盗まれた」と訴えがある時、身近なご家族が疑われることが多いようです。毎日介護をされている介護者にとっては身に覚えのない事を疑われては身も蓋もありません。しかし、こういう場合、興奮して言い返すのは禁物です。自分の気持ちを落ち着かせて、無くしてしまった認知症の方自身が一番困っているのだという事を理解することが大切です。そして「一緒に探しましょう」などと言って行動を起こしましょう。実際にあった物が無くなった時は、日頃から隠す所を把握したり、置く場所を一緒に考えて決めると良いかもしれませんね。

異食(ある物を何でも食べてしまう)について

異食は、満腹中枢が侵されたり、味覚の働きが低下している、あるいは、食べられる物と食べられない物との区別がつかないなどの原因が考えられます。窒息や誤嚥の危険性も出てくるために冷静な対処が求められます。
気が付いたら飴などと交換すると口にした物を出してくれたりします。なお、煙草や洗剤、漂白剤などを飲み込んでしまった場合の基本的な対応方法は、牛乳や微温湯を用いて出来るだけ早期に吐き出してもらうことです。また病院まで移送する間は、仰向けでなく横向けにして吐き出しやすい姿勢を取ってもらう事が望まれます。
また、普段から口にして危険な物を身の回りに置かないようにして、常に健康状態に注意する必要があります。

弄便(排泄物をいじる行為)について

弄便はその行為だけを見ると、明らかに異常な行為に思いますが、この行為はご本人にとって意味のある行動なのです。誰でも、オムツに排便すれば気持ち悪くなり、不快になればオムツを外そうとするのも当然です。きちんとオムツを外して、処理が出来れば問題ないわけですが、これがうまくいかずに手や衣類、寝具や周囲を汚す結果となってしまうわけです。認知症の高齢者が、自己の不快感を解消しようとして行う行為となります。
対応として、スキンシップをはじめとする母性的な対応をすることと、朝食後に座るという生理学的排泄ケアを行うことで解消するケースが報告されています。

食事をしたことを忘れる

食事をしたのに「食べていない」と言って何度も食べ物を要求するのは、食べたことを忘れてしまう、又は、脳の満腹中枢が侵されている、欲求不満を食べることで満たそうとした結果起こるものです。「今さっき食べたでしょ」と言ってもご本人は納得しないでしょう。この場合「これから用意しますね」と言ったり、おやつやおにぎりを少量ずつ渡すなどして、食べることの満足感や期待感を満たしてあげる事が大切です。食べた後もしばらく食器を片づけないでおき、食べたことを確認してもらうのも一つです。
しかし、日頃から摂取量を把握していて、それから大きく違うときは、急性の病気の場合や隠された慢性の身体疾患(消化器疾患)の可能性も疑い、受診を考えましょう。

暴力・暴言について

暴言・暴力があった時は、怒ったり非難すると、暴力行為がエスカレートすることがあります。まず落ち着いて原因を考えましょう。何の言葉もかけないで介護をするなど、自尊心を傷付けるような行為をしていないか考えてみましょう。相手の意志を無視して、強引な事をやっていないかを落ち着いてきたら、ご本人とゆっくり話をしてみましょう。また体に傷や湿疹ができていて、そこを触ったので痛くて、暴力を振るうこともありますから、原因を突き止めて対応することが大切です。